この週末に夫婦で久しぶりの草津温泉に入ってきた。
露天風呂で汗を流し、浴衣がけで湯畑の湯煙を浴び、みやげ屋をのぞき、湯もみ踊りを見物し、宿に戻って色とりどりの夕食をとり、翌日は賽の河原から片岡鶴太郎美術館に回って帰る。どこにでもあるような安心・定番のコース。これが温泉の旅(たった一泊だけど)の満足感を一応満たしてくれる。でも、ちぃーとばかし、マンネリの感がある。
いつも感じることだが、温泉というのはプランを立てたり、行くまでの道筋が一番ウキウキするのに、いざ旅館に着いてからはなぜかウキウキ感がしぼんでいく。これは筆者だけか? そうではない、と思う。たぶん温泉に行く人の温泉に求める"夢""欲求"と、現実の満足度が乖離しているからではないか。接客サービスの悪さにでくわした時など、夢は着実にしぼんでいく。
もっとも、温泉地自体、いま大変らしいのだ。
草津は日本三大温泉の一つだけあって、いつもと変わらぬ温泉客・観光客の多さだった。しかし、もう一つの三大温泉「熱海」は昔の盛況さはすっかり影をひそめてしまって、ひところは旅館やホテルがどんどん潰れた。残る「別府」も黒川温泉など新興人気温泉におされていると聞く。
全国的にみても温泉地の環境は大きく変わっているようで、多くの旅館・ホテルが経営難に陥っている。大企業・団体の寮や保養所に衣替えをするケースもふえている。
近年は"温泉ブーム"といいながら、じっくりと腰を落ち着けて"逗留"するような客は減り続けている。また、企業や組合などの団体客も減っている。温泉で忘年会、新年会、研修会、というのも少なくなった。小社(流通情報企画)も10年くらい前まで、よく熱海で酒販店の勉強会を開いたものだが、いまは企画を立てることもなくなった(立てても集まらないし)。
その一方で、日帰りの観光バスツアーが全盛だ。中高年の主婦層が主役で、"○○採り放題""○○食べ放題"といった目玉企画が人気を呼んでいる。温泉に寄っても、温泉には入るが泊まらないで帰ってしまう。これでは温泉に金が落ちない。温泉地の旅館はいまや斜陽産業化しつつあるのかもしれない。
しかし、「斜陽の中にこそチャンスあり」と、旅館業に目をつけて注目されている企業がある。"旅館再生ビジネス"をてがける長野の「星野リゾート」だ。自身旅館の4代目の星野社長が「顧客満足度の徹底追求」をかかげて旅館の近代化にのり出したのだ。
旅館の敬遠される理由の一つに、部屋に仲居さんがズカズカ入ってきてフトンの上げ下げをすることがある。これをホテル形式のベッドに換えたり、部屋での食事を個室スタイルのダイニングにしたり、宿泊と食事の分離(これがいい)を導入したり、いろいろな改善の手を入れているという(以上はTVの受け売り)。昔ながらの旅館にこだわる人もいるだろうが、再生ビジネスが潰れかかった温泉旅館を心からくつろげる、満足度の高い癒しのリゾートに甦らせてくれるとしたら、利用者としてもありがたい。
ここで酒販業界として問題にしたいのは、温泉における酒の消費減少だ。
温泉地で旅館やホテルに納めている酒販店から話を聞くと、消費量は減少の一途だという。日帰りツアーはもちろんのこと、泊まりでも昔のようには飲まなくなった。企業や団体客・イコール・大宴会、というケースも減ったのだろう。
だが、酒量が減った理由はそれだけではないように思える。
経験からいえば、うまい酒、それも土地の地酒をうまく出すところがあまりに少ないことも大きな要因ではないか。そもそも温泉旅館あたりで供される酒、とくに日本酒のつまらないこと。お膳にはゴチソウが派手に並んでいるのにお酒のみすぼらしいこと。聞けば1升1000円もしない仕入れ値の酒を18杯、20杯取りして、つまり20倍もの値付けで出す例もあるとか。これじゃ、うまいわけがない。女性や若い人が飲むわけがない。
筆者は部屋での夕食の場合は、近くの酒屋から地酒の純米吟醸あたりを買い込んできて晩酌に供する。一風呂あとのビール、その後の日本酒。温泉を堪能するにはこれが欠かせない。ところが、大部屋での食事だとこれができない。特別に「地酒」や「冷酒」メニューもあるが、値段のわりにうまくないものが多い(ウルサイ客だ)。
そのくせ館内の居酒屋に行くと、入り口に麗々しく「久保田」が萬寿・千寿・なんとか寿と並んでいたりする。バカ高なんだろうな。ぼられるだろうな。それに、ここは新潟かい? ここの地酒はなんだっけ?
酒屋さん、頑張ってくださいよ。
せめて旅館・ホテルの外に地酒と、地の食材を使った料理を楽しめる店を2、3軒育ててほしい。私の夢は、夕食は早めに軽く切り上げて、もう一風呂浴びてから宵闇の外に出て、そんな店で土地の食・酒を堪能すること。
年に何度もない、そんなささやかな夢をかなえてくださーい。(小島)
