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わが道を行く!! 栃木の新世代<蔵元杜氏>訪問記

2008年7月 6日

 世代交代とは恐ろしいものだ。つい最近まで若い業界人が群がっていたお酒の会やイベントが、いつの間にやら中年・壮年層中心のそれに変わっていたりする。明らかに熟年・老年層が主体のイベントすらある。
 同じように人気酒や人気店もそのファン・支持層と一緒に老化していく。老ねるのはお酒だけではない。何も新しい手を打たなければ、ものの十年ほどでどんな人気者も精彩を失って、過去の存在になっていく。
totigi 3kura 1 sawahime.jpg それとは逆に、新しい人気者が突然のように浮上することもある。筆者がここ2、3年驚かされているのは、栃木県の日本酒だ。昔、東京で開かれていた県組合主催の試飲会は、出展蔵元もお客も年配の人ばかりで、著しく盛り上がりに欠ける印象だった。10年くらい前から顔を出すこともなくなっていた。

 それが3年前にたまたま行った試飲会では、蔵元も客も若手一色に様変わりしていたのでビックリした。一気に世代が若返って、雰囲気も若々しい活気に満ちていた。もちろん試した酒も格段にうまくなっている。ここ数年、"下野(しもつけ)杜氏"をめざして、県の「酒造技術者養成講座」などに学んできた成果が実ってきたからだ。世代交代や若さだけで栃木の酒が活性化したわけではない。
 そこで宇都宮市で若手蔵元のサポート役・プロデューサー役をはたしている目加田酒店のご主人・目加田功士さんに、「酒販店経営」2007秋号に「新進"蔵元杜氏"の有望4銘柄」という記事を書いてもらった。目加田さんイチオシの松の寿・大那・旭興・澤姫、その4人の"蔵元杜氏"を紹介する情熱のレポート記事だ。
 いつかこういう蔵を訪ねたいと思っていたが、この度めでたく実現した。
筆者が主宰する酒販店サークル「21世紀酒屋塾」の若い経営者・後継者10人ほどで、この4蔵のうち行きやすい大那・旭興・澤姫の3蔵を訪問・視察させてもらうことにしたのだ。快く迎えてくれた蔵元も訪問者もほとんど30代同士で、意気投合しながらの楽しく実り大きな蔵めぐりになった。

totigi 3kura 2daina 2.jpg   さて当日、宇都宮駅から大型レンタカーで最初に訪れたのは市内の「澤姫」㈱井上清吉商店。杜氏を兼ねた専務の井上裕史さんが地元産・大谷石による石蔵を案内してくれた。
 井上さんの酒造りの信条は"真・地酒宣言"。全量地元の米で造るのだ。4年前には新酒鑑評会の酒も山田錦から地元産「ひとごこち」に変えた。「胸張って栃木県産100%の酒といえるようになりたい」と井上さん。酒質は生もと・山廃系をめざしているが、とくに"スッキリ味の新しい生もと"を造っていきたいとする。
 石蔵の2階にはまだ新しい白木の麹室があって、これが麹も蔵人も働きやすいように独自設計された素晴らしいものだった。酒母室では好きなジャズをタンクの吟醸酒に聞かせて、酒造りを楽しむ井上さんであった。(写真は右上が「澤姫」井上さん、その下は「大那」の自社田を見る)

totigi 3kura 2daina 1.jpg 次は車で1時間ほど離れた大田原市の「大那」菊の里酒造㈱に。蔵元・阿久津信さんは井上さんの同級生だ。菊の里だった代表銘柄を阿久津さんが"大きな那須"という意味で大那にした。

 阿久津さんもまた地元米にこだわり、自社の田んぼで山田錦を生産し、あとは地元農家8軒との契約による有機米を使っている。
 自前の田んぼをみせてもらいに蔵の裏に出ると、小川に蛙や蛇がのんびり日向ぼっこ(?)をしていた。「ここは蛍が出るんですよ」と阿久津さん。自慢はふんだんに汲み上げられる那須山麓の伏流水の質のよさだ。

 今は夏場ということで、日本酒ベースの梅酒・りきゅーるを製品化している。梅酒は「梅子」、ユズのりきゅーるは「柚子」と可愛らしいネーミングである。
 阿久津さんは8代目だが、「20代の頃は相手にされなかった。30を過ぎてやっと一人前に見られるようになったんですよ」と笑っていた。

 最後は同じ大田原市内の「旭興」渡邉酒造㈱。
車で15分くらいの距離だが、渡邉英憲専務は「ここは冬の寒さが厳しくて、昼夜の寒暖差も大きな地なんです」という。東北にきてしまったような気 totigi 3kura 3kyokukou.jpgがする。

 前2蔵は最近、東京市場でも見られるよう  になっているが、「ウチは99.9%県内向けです」と渡邉さん。
  酒質も生原酒タイプは原則造っていない。「個人的には火入れでお燗向きの酒が好きなんです」「生もと系に力を入れてます」と渡邉さんが強調するように、実際にお燗にすると格段にうまくなる酒だ。
 前2人の蔵元もそうだったが、渡邉さんも造りの道具などに独自な工夫をこらしていた。たとえば効率がいいということで麹蓋の4倍の大きさの"麹箱"を使っている。同様に洗米用には布ではなく使いやすい網の袋を開発して使っている。

(写真右上は「大那」阿久津さん、下が「旭興」渡邉さん)

 以上、今回訪問した3社はそれぞれ500石、350石、800石と小さな蔵である。蔵元3人とも造りを自ら担う"蔵元杜氏"だ。栃木の地酒造りへの前向きさは共通していて気心も知れた3人だが、めざす酒質や造り、商品や販路は一様ではない。微妙に異なる考え方があるやに見えた。

 しかし、そこがかえっておもしろい。それぞれ独自な技術や道具を開発・工夫しているのは、お互いに競い合っている表れではないか。発展の可能性をそこに見た思いだった。
 夕刻より宇都宮市内の名酒居うまさ酒屋「月のうさぎ」で、3蔵元に目加田さんもまじえた交流会をもったが、3銘柄の酒のうまさに大いに盛り上がったことはいうまでもない。         (小島)

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