盛岡を過ぎたあたりから、山なみは紅葉の真っ盛りだった。山吹、黄、紅、たまに深紅。とりどりに彩色された山々を新幹線の車窓から眺められただけでも、はるばる秋田まできたかいがあった。あとはうまい地酒にきりたんぽ、ハタハタ、イブリガッコか。しかし、旅の目的はお仕事、お仕事。秋田市で開かれるセミナーのコーディネーター役という大切な役目が待っているのだ。
全国的に料飲店業界は大変厳しい状況が続いている。とくに酒酔い運転に関する道交法の罰則強化以降、酒を出す地方・郊外の店はチェーンであろうと単独店であろうと等しく打撃をうけている。それはもろに酒類消費の減少になって表れてくる。
そんな状況を黙って見ていられないと立ち上がったのが、秋田県の酒造組合だ。清酒大国といわれ続けてきた秋田も、年々製造量・消費量を減らしてきた。そこで県内の有力な料飲店とともに、消費拡大・売上げ回復を考えようと企画・開催したのは、料飲店向けのセミナーだ。
セミナーは11月11日(火)午後2時から5時まで、秋田市内のビューホテルを会場にして「なぜこの飲食店は繁盛するのか? その秘密を聞く」のタイトルで開催された。形式はパネル・ディスカッション。生き馬の眼を抜くような東京の料飲業界で繁盛している店のプロフェショナルをパネラーに招いて、繁盛の秘訣や条件を聞き出そうという内容だ。
会場には100人近い聴講者がつめかけ、市内外の有力料飲店関係者を中心に酒販店や酒造組合幹部の蔵元の姿もあった。開会冒頭、組合の伊藤辰郎会長(刈穂・出羽鶴の蔵元)が挨拶に立った後、3時間という長丁場のパネル・ディスカッションがスタートした。はたして会場内に1人の居眠り客を出さずに、満足して帰ってもらえるか。セミナーは主催者や講演者にとって、一つの闘いの場、といっていい。
筆者が自信をもって選抜、登壇をお願いしたパネラーは男女2人ずつ。1人は都心に「宝」「W」など和風ダイニングバー6店舗を展開する「夢酒」グループを統括する酒ソムリエ・森隆さん。もう1人は、神田の居酒屋「新八」がリニューアル後の新丸ビル内に出した「新八・新丸ビル店」の店長・渡邉 愛さん。お店と同じ着物姿で登壇してくれた。お二人とも料飲・居酒屋の世界では有名人だ。
セミナーのサブタイトルで「地酒・焼酎・梅酒、トレンド先端を疾走するダイニング<夢酒>」と「日本酒はお燗だ、こだわり正統派の居酒屋<新八>」とキャッチコピー風に紹介してあるが、これだけでも両店が対照的なコンセプトの店であることがわかるだろう。(写真は向かって右からパネラーの渡邉・森両氏とコーディネーター・小島)
ディスカッションで同じ設問を投げかけても、違う角度からの答えが返ってきて、大変おもしろく、また実践的だった。それでも共通しているのは、お客様に喜んでもらうために最高のメニューとサービスを追求してきたことだ。
最近のアメリカ発の金融危機、その実体経済への影響は、地方より都心の方が直接的に表れる。新丸ビル内に闊歩していた外人客がアッという間にいなくなったと渡邉さんは語っていた。やがて羽振りのいい日本人客もしばらくは減るに違いない。地方は地方の、都心は都心の、厳しい環境の中で繁盛の工夫をしていかなければならない。
森さんは「みなさんの中で、朝礼をやっているお店、手を上げてください」と語りかけ、誰も手を上げないのを見て、飲食店における朝礼の重要さを強調した。繁盛店は朝礼を欠かさない、これは来場者のお土産になったはずだ。
こうして長時間にも関わらず、来場者はまんじりともせずに聞き入ってくれて、無事セミナーは終了した。その後、市内の居酒屋で主催者の蔵元さんたちとの楽しい反省会(懇親会)。お目当てのキリタンポ鍋をはじめ秋田名物を次々と堪能、最後に横手の焼きそばまで出てきたのには驚いた。
翌日の午前中、組合の東海林氏の案内で、パネラーの2人と揃って蔵を訪ねることができた。
五城目町の「福禄寿」の福禄寿酒造
と、秋田市中心部にある「新政」の新政酒造の2蔵だ。福禄寿では後継ぎの渡邉康衛さん(29歳)が今人気の「一白水成」にかける思いなどを語ってくれた。新政の佐藤卯兵衛社長(58歳)は、今期から杜氏をはじめ若い社員だけで造りを始めたことや特定名称比率を上げていくことなど、新段階への取り組みを語ってくれた。今は麹屋担当のご長男(33歳)が寝る間も惜しんで働いている光景も目にして、秋田の酒造に新しい風が吹き始めたことを実感したのである。今回の秋田行のいいお土産になった。
(写真上は、福禄寿、下は新政の蔵風景)
(パネル・ディスカッションの内容は「酒販ビジネス情報」11.15号に掲載します)
